CES 2024:現地から見たテクノロジーの最前線

Vol.7少子高齢化先進国の日本。世界のロールモデルとなれるのか -後編-

  • 2024年4月
  • パートナー 橋本 直也

CES 2024:現地から見たテクノロジーの最前線

Vol.7少子高齢化先進国の日本。世界のロールモデルとなれるのか -後編-

  • 2024年4月
  • パートナー
    橋本 直也

進む支援のカタチ、韓国の高齢者向け医療サービス

 前編では、「選挙DX」に焦点を当て、韓国の先進的な取組みから日本における障壁を考察してきた。後編では、「高齢者向けの医療」と「公共交通の自動運転」について、見ていくとしよう。

 

 日本の前に立ちはだかる最も深刻な課題、それが少子高齢化であることに疑う余地はない。労働人口の減少が続く中、増加する高齢者への良質なサービス提供が求められる。この状況に対処し、公的サービスの質の低下を避けるためには、前例のない効率化の実現が急務である。この解決の糸口となり得る4つの製品を取り上げる。

 

 1つ目のON:TACT HEALTH社「Digital Mobility Clinic」は、高齢者の通院負担軽減が期待できる移動式診察サービスである。病院への交通アクセスが困難な地域に対し、診察機能を兼ね備えたバスが患者の自宅近辺まで赴き、診察機能を提供する。患者は些細な不調で病院にかかるべきか否か迷っている状態でも、自分のスマートフォンから予約し、気軽に診察や検査を受けることができる。また、必要に応じて、専門の病院への紹介も行われる。これにより、移動が大変な高齢者も病状が悪化する前に気軽に診察を受けることが可能となる。
 実は、日本の医療情報システム「99さがネット」でも自分の住所を入れると県内の最寄りの救急医療機関が案内されるサービスがある。「Digital Mobility Clinic」は、この「99さがネット」を参考にして開発されたそうだ。

 

 2つ目のLuxNine社「Bodylog」は、高齢者の見守りが可能となるウェアラブルデバイスである。衣服装着型のデバイスやベッド型のデバイスによって、高齢者の姿勢や体の傾きを精密に検知することができる。例えば、地方で暮らす高齢者の衣服に小型のウェアラブルデバイスを装着しておくことで、高齢者の状態が正常かどうか(転倒等をしていないか)を確認することができる。

 

 3つ目のGYEONGGI HOUSING & URBAN DEVELOPMENT CORPORATION社「Smart Modular Home Pad」は住居を包括的に管理するスマートホームパネルである。本製品はマンション室内に取り付けるインターホンのような形をしており、自宅内の電気や水道の使用量確認、室内家電のコントロールに加えて、マンションのエレベーターの呼び出しまで全てこのパネル上で操作可能な画期的なデバイスとなっている。また、マンション内に取り付けたモーションセンサーなどから自宅内でのあらゆる活動の履歴がデータとして残るため、一人暮らし高齢者の見守りにも利用できる。

 

 4つ目のNuraLogix社「Anura」はスマホのカメラを用いて、健康状態や将来の病気の可能性が分かるアプリである。測定方法はアプリをインストールしたスマートフォンを用意し、アプリの案内に従って、カメラに顔を30秒間固定して映し続けるだけである。その結果、心拍数や血圧に加え、ストレス値、特定の病気のリスクを確認できる。高齢者にとっても使いやすいUI/UXになっており、健康状態の管理や好ましくない数値を観測した場合、すぐにオンライン診察につなげることで、深刻な状態になる前に処置につなげることができ、予防医療としての期待も高い。ただし、病気のリスクを表示するためにアメリカや日本などの国ごとに認可を得る必要がある点が普及への障壁となっている。

 

 上記の4サービスのうち「Anura」を除く3サービスは、韓国の企業である。なぜそれほど韓国企業が公共・医療の分野で前進できているのか。現地で質問を投げかけてみた。

 韓国では政党争いが激しいという政治的な背景がある。そのため、今回紹介したようなサービスは、市民へのアピールがしやすく、予算獲得が容易になるという。さらに、韓国では審査を通過したスタートアップ企業に対して、国や市の公的機関から援助を得られるケースが多い。このようにして、韓国スタートアップ企業の成長する環境が整っているのだ。

 

安全性vs実用性、抜け出せない自動運転の停滞感

 続いてのテーマは、「公共交通の自動運転」だ。

 日本国内では、2023年に福井県永平寺町、羽田イノベーションシティ、GLP ALFALINK相模原の計3エリアにてレベル4の自動運転(限定条件下での完全自動運転)が認可される等、着実に進捗しているように見える。しかし、いずれも実証実験の枠に留まっており、一般消費者の期待の高さに比べると、停滞感を感じてしまうのが現状だ。

 

 日本のTier Ⅳ社が自動運転システム「Pilot.Auto」を搭載した乗り合いバスを展示していた。彼らによると、自動運転技術の公共交通手段での実用化における最たる課題は安全性と実用性の両立だという。一度でも事故が起きれば開発規模が大きくシュリンクしてしまうという市場の特性がある。

 

 経産省、国土交通省、民間企業の有識者からなる自動運転開発プロジェクト「RoAD to the L4」の技術や制度の設計においても、安全性が非常に重視されているとのことであり、安全性とトレードオフの関係にある実用性をどこまで高められるかが重要なポイントとなる。

 

 極端な話だが、安全性のために歩道を跨ぐ際に毎回停止する仕様ではユーザー目線での実用性は極めて低い。その点、米国では既に無人タクシーの認可実績があり、国としてのリスク受容性に違いがありそうだ。特に日本ではリスクを過度に避ける傾向にあり、米国などと比べて大手自動車メーカーが開発に注力できていないと感じる。

 

デジタル庁が切り拓く、公共・自治体DXへの道

 CES2024の展示を通じ、特に韓国企業の存在感が際立っていた。その背景には、政府の投資や補助金によるスタートアップ支援施策の強化があり、国をあげて世界展開を見据えた動きが見て取れる。

 

 一方、日本の状況は異なる。マイナンバーカードは2016年の開始から7年が経過しているものの活用範囲も限定的であり、普及が進んでいるとは言い難い。また、公共・自治体DXは各自治体が個別に検討・導入しているケースも多い。

 

 こうした状況を打破するためには、デジタル庁が旗を振り、統一的な基準・仕様の整備や先進事例の横展開の音頭をとる等、民間企業が本格的な投資に舵を切りやすい土壌をつくり、公共・自治体のDX化がさらに活性化していくことを期待したい。

論考・レポートに関するお問い合わせ