CES 2024:現地から見たテクノロジーの最前線

Vol.6少子高齢化先進国の日本。世界のロールモデルとなれるのか -前編-

  • 2024年3月
  • パートナー 橋本 直也

CES 2024:現地から見たテクノロジーの最前線

Vol.6少子高齢化先進国の日本。世界のロールモデルとなれるのか -前編-

  • 2024年3月
  • パートナー
    橋本 直也

 少子高齢化が進んでいる日本の公共・自治体サービスは、世界から注目を集めている。例えば、佐賀県の医療情報システム「99さがネット」は、韓国企業で開発された類似サービスのモデルとなっており、そのサービスは韓国国内で普及に向けた取組みが進められている。一方、日本全体で見るとSmart Society、特に公共・自治体分野への取組み進捗は芳しくない。少子高齢化先進国として日本が世界のロールモデルとなるために何が必要か。公共・自治体DXの観点で探る。

 

日本と韓国の違い

 マイナンバーカードの普及や脱はんこ等、日本の公共・自治体においてもDXの動きが加速している。少子高齢化が進み、労働人口比率の減少が加速している中、「業務の効率化」「省人化」「高齢者介護負担の軽減」など、DXへの期待は日に日に高まっている。

 

 CES2024では、「選挙DX」「高齢者向けの医療」「公共交通の自動運転」に関連する製品の展示、そしてこの分野における韓国企業の出展数が多いことが目に留まった。現地で取材してみると、どうやら、韓国企業は政府からの支援や国の考え方に日本との違いがあるようだ。

 

 韓国は、技術的な進歩以外の要因が働き、官民が一体となって公共・自治体DXを推進している印象を受けた。日本においても技術的な進歩を目指す一方で、国の支援制度や関係者間の連携強化等、環境整備に力を入れることが、公共・自治体DXの加速に繋がるのではないだろうか。

 

 次節以降、実際にCES2024で目に留まった製品や、その製品の担当者との会話を通して得た知見の紹介と共に、日本の課題・今後の展望について述べていく。

 

オンライン投票システム「zkVoting」の進化と展望

 まず、選挙DXを見てみよう。
 1つ目に取り上げるのは、韓国Zkrypto社のオンライン投票システム、「zkVoting」だ。公共・自治体において、オンライン投票は政治に関連して注目されているDXの一つであろう。実現されれば、紙・ヒト・場所の効率化が一気に図れる革新的なものである。

 一般的に、オンライン投票システムは技術的なハードルが高いとは感じにくく、有権者(特に若者)からは実現可能な技術であると認知・期待されているだろう。しかし実際は実現に向けた障壁が高く、公的選挙では未だ導入ができていない状況である。

 

 「zkVoting」は、アプリ・ブラウザのいずれからも使用することができ、各個人のスマートフォンからの投票を想定している。スマートフォンを持たない、もしくはスマートフォンの操作に慣れない方にも、投票所に設置したタブレットで使ってもらう設計のようだ。

 投票手順としては、わずか2ステップで完了する。まずランダムに表示される4桁のコード番号を打ち込み、次に投票画面に移って、候補者を選んで投票する。投票後は表示されたQRコードを読み込むと自身の投票履歴を見ることが出来るため、証跡として保管しておくことも可能だ。

 4桁のコードを打ち込むのは本人認証のためのステップで、実サービス段階は国によって認証方法が異なる想定だという。仮に日本で導入する場合は、例えばマイナンバーカードをかざすことが代替手段となりうるだろう。少ない手順で投票することができ、高齢者にも利用しやすいシンプルな仕組みとなっている。

 

 「zkVoting」は昨年も出展していた。昨年との違いは、ブロックチェーン技術により投票履歴の改ざんリスクに対するソリューションを追加しており、実現に向けて着実に進歩をしている。2025年の実用化を見据え、現在は実証実験段階だが、高齢有権者も含めた幅広い利用者への浸透をスムーズに行うために、実用化後の全国民への周知・普及促進に向けた取り組みについても検討を開始している。

 

日本における選挙DXの障壁

 日本のオンライン投票システムは、茨城県つくば市で取組み事例がある。国家戦略特区「スーパーシティ」に認可されているつくば市では、2024年10月の同市の市長選での実用化を目指してオンライン投票のシステム開発、実証実験を行っている。一見、「zkVoting」の2025年のリリースより先行しているように見えるが、あくまで一自治体の範囲に止まっている。一方で、「zkVoting」のリリースは韓国の国内全体、さらにアメリカ・カナダへの海外展開を見込んでおり、つくば市の市長選とはスケールが大きく異なる。

 

 正直、サービスを構成する要素技術に先進性やアイデアや真新しさはない。日本企業でも十分開発が可能に思えるものの、普及を妨げる課題としては、「公職選挙法の改正」「改ざんリスク対策」「セキュリティ不安の払拭」「本人認証方法の確立」「有権者の適応」等、国が主導して解決すべき要素が多く挙げられる。韓国でもこれらの課題は同様の状況だが、ZKrypto社は韓国政府と強固な関係を持ち建設的に議論を行っており、これらの課題を今後解消していく見通しだ。

 

 このように「選挙DX」の観点から見ると、日本と韓国の間には顕著な違いが存在していた。後編では、「高齢者向け医療」と「公共自動運転」の観点から論じる。

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