CES 2024:現地から見たテクノロジーの最前線

Vol.4SDV普及が伝統的OEMに危機をもたらす -後編-

  • 2024年3月
  • パートナー 嶋津 将樹

CES 2024:現地から見たテクノロジーの最前線

Vol.4SDV普及が伝統的OEMに危機をもたらす -後編-

  • 2024年3月
  • パートナー
    嶋津 将樹

SDV普及に向けた真の課題とは

 前編 では、CES2024で目の当たりにしたSDVの現在地について、伝統的OEMとそれを支えるサプライヤ両方の立場で見てきた。
 その現在地からみて普及への課題には何があるだろうか。

 

 まず思いつくのは、SDVの導入コストとその売価だ。

 SDVでリードしているテスラやNIO等の新興OEMが販売する車両はどれも高価格帯のものが中心となっている。CES2024でSDVを謳っているMercedes Benzが高価格なのはもちろんのこと、Sony Honda mobilityも同様に高価格となることが予想される。

 

 展示ブースの社員に聞いてみたところ、”安くはならない、数を追って量産するような車ではない”との回答があり、ソフトウェアを刷新することで発生する開発費用や新設部品コストなど一朝一夕で下がらない価格をどうするかはOEMに圧し掛かるものと想定される。

 

 しかし、実際にCESで筆者が感じた一番の課題は別にある。

 それは、OEMによるSDVを通じた顧客への価値ある具体的なコンテンツ提供である。前編 にある通り、サプライヤ側の展示の多くはシーズをベースとした具体的な価値を想像させる技術となっており、技術的な観点におけるSDVの普及の障壁は大きくないと考えている。そのため、普及に向けたボトルネックはOEM側のコンテンツ提供に存在していると感じている。

 

 実際の展示を見ても、OEMによるSDVで実現しているコンテンツ提供の展示事例はAFEELAやMercedes Benz等で数が少ない印象であった。OEMによっては、SDVの最終ゴールである、顧客に常に最新の安全やUXを提供するための車両アーキテクチャの検討自体が道半ばであること、ソフトウェアを通じて顧客を満足させる提供価値を描くことに苦慮しているのだろう。

 

伝統的OEMに求められる対応

 CESの外に目を向けるとテスラを筆頭とするアメリカや中国の新興OEMといったSDVのトップランナー達がいる。トップランナーの立ち位置理解と将来予測は、各伝統的OEMが自社の歩む道を決める上で必須であろう。今後の伝統的OEMはSDVの世界で競争力を保てるかどうかが勝負の分かれ目となりえる。

 

 では、前編で上げたSDVを通じて価値あるコンテンツを伝統的OEMが提供するために求められる対応は何か。SDVのトップランナー達を考慮に入れつつ、考えていこう。

 

 SDVで顧客に常に最新の安全やUXを提供するには、それができる素地をまずは整えていくことが急務であろう。ソフトウェアファーストとなる場合、顧客のニーズ調査/開拓といったマーケティングからアプリケーション開発・リリース、そして顧客からのフィードバックを踏まえた継続的アップデートという一連のプロセスを早いサイクルで回すことが求められる。組み込み系でこれまでやってきた伝統的OEMとしては自社内のリソースやナレッジが不足しているため、現状の体制でスピード感をもって対応することは難しく、ゼロベースでの体制構築が必要になってくる。

 

伝統的OEMが構築するべき体制

 体制構築にあたり、まず各OEMはテスラ(アメリカ)のようにすべてを自社開発するか、一部もしくは全部を外部企業との協業という形をとるかの意思決定を行う必要がある。また、協業する場合においてもどの領域(ソフトウェアのプラットフォーム、ADAS/ADやインフォテインメントといったサービス・アプリケーション、ユーザーインターフェース等)をどの企業と行うかをOEMとして明確にしなければならない。

 

 但し、今から伝統的OEMが過去のアセットをかなぐり捨てて全てを自社開発の選択とするのは難しいだろう。新興OEMは基本的に自社で内製する形をとっており、それに応じた組織体制を最初から構築している。実際にIAA23では新興中国OEMのNIOはR&D従業員1万人のうち6,000人をSW開発に割り当てていると説明していた。

 

 そういった状況を踏まえると、伝統的OEMは、ある程度パッケージとして提供しているサプライヤやITジャイアントとの協業が現実的な路線ではないかと筆者は考えている。

現に、Sony Honda mobilityとMicrosoftとの提携、Mercedes BenzとGoogle, Amazonの提携等、CES2024においては既にそのような動きが見えている。

 

 CES2024では、前年までと比較してSDVに向けた確かな技術進歩が見えた。ただし、世間からするとその違いはわかりづらく、あまり進歩しているような印象を持てないのが実情である。重ねて言うが、SDVの領域においては新興OEMが既に販売している。今回の展示でSDVの最新製品・技術の発表はされているが、SDVそれ自体がもう最先端ではないという現実に向き合い、伝統的OEMは自社のアセット、目指す姿に合わせてSDV化に向けた体制構築を加速していく必要がある。

 

 5年10年先の近い将来、自動車業界の勢力図に伝統的OEMが今の地位に踏み留まれるかは、これからの選択が重要であり、まさに正念場であることは間違いない。

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