CES 2024:現地から見たテクノロジーの最前線

Vol.5商用車(建機・農機)の自動化・電動化は道半ば

  • 2024年3月
  • パートナー 岩田 高明

CES 2024:現地から見たテクノロジーの最前線

Vol.5商用車(建機・農機)の自動化・電動化は道半ば

  • 2024年3月
  • パートナー
    岩田 高明

 自動車産業における重要キーワード「CASE」が広く認知されて久しい。各自動車メーカーは、CASEに沿った戦略的な市場展開・技術開発を進めている。特に、Autonomous/Automated(自動化)とElectric(電動化)においては、商用車が激しい競争の舞台となっている。CES2024でも、特に建機と農機といった商用車の進化が際立っていた。本稿では、これらの分野に焦点を当て、その最前線に迫る。
 

建設産業と農業が抱える三大課題

 CES2024の展示内容に触れる前に、各企業の取組みを正しく解釈すべく、建設産業および農業が抱える課題を見ておこう。

 

 昨今、業界問わず、労働力の不足が世界的な課題である。建設産業と農業も例外ではなく、人口の高齢化が進む先進国と多くの新興国では、労働生産性の向上が急務となっている。

建設産業と農業においては、専門知識と肉体労働を要する仕事の特性から、労働力の供給が限られる。さらに労働者の男性割合の高さや、高齢化によって労働力不足が深刻化している。

 

 加えて、建設産業特有の課題として、事故リスクの低減・安全性向上がある。建設現場での高所作業や重機の使用機会が多い分、常に事故リスクと隣り合わせであり、対処コストも小さくない。もし仮に事故が発生した場合、関係者への損害賠償だけでなく、企業活動に重大な影響が及ぶこともある。

 

 他方、農業では、持続可能な社会の実現に向けて、環境への影響抑制が課題である。年々厳しさを増す環境規制への対処コスト増加が懸念であり、特に大規模な農地を持つ欧米諸国においては、環境保全に直接的かつ大きな影響を及ぼし得るため、環境規制への対処は政府や行政から強く求められている。また、欧米諸国で制定された規制は、政治的な観点から日本でも近い将来に同等の対処が求められる可能性が高く、日本の農業においても同様の課題が存在すると言える。

 

 このように、労働力不足、安全性向上、環境対策が建設産業と農業における三大課題である。

 

課題を解決する”自動化”と”電動化”

 前述した課題に対して、CES2024では様々なアプローチが披露されていた。技術革新が進むAI・5Gや、デバイスの高精度化がしているセンサー・カメラ・電池などを取り入れることで、各社が自社製品の自動化と電動化を図っていた。

 

 建機と農機における自動化は、現在、コンセプト・技術検証の段階である。これが進むと、専門知識や体力に依存しない労働力を活用できるとともに、自律運転やデータの一元管理によりそもそもの労働自体を省人化できる。建設産業・農業がともに抱える労働力不足の解消が期待できるのだ。

 

 遠隔・無人操縦が可能になると、現場に労働者が立ち会う必要がなくなり、事故リスクの低減につながるとともに、データの利活用を通じて、危機管理の精度向上が期待できる。加えて、作業のシミュレーションや最適化により、人が作業するよりも効率的かつ、高品質な作業が可能になることも期待できる。

 

 さらに、環境影響抑制に向けた脱炭素化は喫緊の課題である。自動車に比べて遅れをとっていた建機と農機の電動化が近年ようやく発表・市場導入されつつあり、次世代商用車(建機・農機)の一丁目一番地を担う存在となることが期待される。

 

 これら、建築産業および農業の発展における課題解決に向け、建機と農機における自動化と電動化の現在地と展望について、CES2024出展各社の取組みを通して考えていく。

 

CES2024に見る”自動化”と”電動化”の現在位置

 HD Hyundaiは、基調講演にて、人類の持続可能な社会の実現に対して、時空間の限界を越えるソリューション「Xite Transformation」を提示した。これは、①デジタル技術・AIを活用した安全性の確保②生産性向上のための無人自律化③エネルギーバリューチェーン全体の脱炭素化、という3つの目標を目指すものである。

 

 次に、世界最大規模の農機具メーカーJHON DEEREは、肥料散布システムや電動車両の開発、自動運転機能の構築を通じて、効率化や省人化の取組みを推進している。前年のコンテンツから継続した内容であり、自動運転の農機を今後、市場展開を予定しているという状況である。

 

 Caterpillarは、車両の電動化を軸にした製品開発に注力しており、CES2024の展示では「Power of Possible」と題して、電気機械とエネルギーソリューションにフォーカスしていた。様々な再生可能燃料で稼働する発電機やソーラーパネル・水素を燃料とする燃料電池など低炭素強度のオンサイト発電機を開発しており、ユーザーの利用シーンを想定したトータルソリューションの提供をアピールしていた。

 

 CES2024が初出展となったKubotaは、北米法人が完全電動式の多目的農耕車両「ニューアグリコンセプト」を発表。自律走行を可能にし、急速充電をアピールしていた。出資するスタートアップと共同開発を進めているものの発売時期は未定で、今後も改良を重ねる予定としている。

 

“電動化”の足かせ:バッテリーコストの課題を超えて

 自動化に比べ市場導入が進む電動化においては、その普及に大きな課題が残されている。

有人運転であり化石燃料で駆動する現行機種と比較して製造コストの上昇が見受けられ、その主要因はバッテリーコストにある。

 

 乗用車と比べてより大きな容量のバッテリーを搭載する建機と農機においては、このコストが価格に対して大きなインパクトである。具体的には市場展開済み企業の製品において、現行機種との価格差が1.5~2.5倍程度と、電動化への足かせとなっている。

 

 建機メーカーと農機メーカーはバッテリーを他社からの仕入れに頼っており、技術革新を待つことしかできないが、一部メーカーでは販売ディーラーと販売戦略を協同立案して普及に向けたアプローチを検討・実施しているとのことで、コスト抑制を実現した製品の発表を心待ちにしたい。

 

市場投入が近い”自動化”

 自動化については、いくつかの技術的改善点が残存しているものの、限定的には実証実験が進められており、1-2社が数年内に製品を市場投入する予定であることがわかった。ただし、現時点で市場ニーズにどこまで充足できるかは機能・価格ともにまだ不透明ではある。

 

 とはいえ、建機や農機は自動車と比較して、走行環境における制約が少なく、予測もしやすい。また、特定のタスクに特化していることを踏まえると、完全自動化へのハードルは自家用車よりも低くなる。そのため、初の全自動の「車」はこの農工用車両から市場に登場する可能性が想定されるので、一定の期待感をもって今後も注視したい。

 

 建機と農機における今後の展望は、自動化・電動化された新製品・関連サービスの開発や市場導入が益々活発化し、競争激化することが予想できる。

 ただし、乗用車と比較すると、建機と農機は製品サイクルや購入コストなどの課題を抱えており、こうした課題の解決により製品の一般販売化、およびソリューションの導入・普及が進んでいくことを期待したい。

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