カーボンニュートラルを推進する枠組みの理解とその活用

エグゼクティブパートナー 竹平 勝博
カーボンニュートラルは、今日の企業経営において中核となるテーマだ。その推進にあたって避けては通れないのが、国際イニシアティブ等が示す様々な“枠組み”である。しかし、その理解や活用の浸透度は企業毎に異なり、また企業内でも温度差があることも多い。本稿では、この枠組みについて4つの論点から解説する。全社一丸となって取り組むために不可欠な共通理解としておさえておきたいものである。

今一度おさえておきたい枠組みに関する4つの論点

 現在、カーボンニュートラル(CN)の達成に向け、全ての企業にとって脱炭素経営の実現は最重要経営テーマの1つであろう。パリ協定を契機に、国際イニシアティブなどを中心に、CNに向けた取り組みを促進する枠組みや基準が作られ広まってきた。気候変動に対応した経営戦略の開示や、CO2等排出量削減に向けた目標設定などを支援・促進するものである。さらに、枠組みを通して公開された企業の情報や格付けは、国際的なESG投資の重要な判断材料になっている。すなわち、全ての企業に脱炭素経営の推進が迫られる中、こうした枠組みをどう活用するかが、企業の命運を左右するといっても過言ではない。この世界的なCNの潮流は、他社と差別化を図り、投資やビジネスチャンスを得る“機会”となるのか、はたまた市場に施策が劣後し、後手の対策に追われてしまう“脅威”となるのか。


 コンサルティングの現場でクライアントと対話する中でも、枠組みに対する課題感が伝わってくる。枠組みに対する理解・活用の浸透度は企業毎に異なっており、また企業内でも部署間などで温度差があることも少なくない。浸透度・温度感の段階によって具体的な課題や抱える問いはまちまちだ。

 初歩的な問いは「そもそもどんな枠組みが存在しているのか」というものである。現在、この段階にある企業や社員は少なくなってきたと思われるが、枠組みの種類についての理解は曖昧だったり、人によって認識が異なったりすることも多い。

 次に、理解が進むと「個々の枠組みは理解しているが全体感が掴めない。まず何から着手するのが良いのか」といった悩みを抱えやすい。これは、全体を俯瞰した際の枠組みの関係性や優先度が捉えられていない場合が多い。

 枠組みの全体像を掴めると、具体的な対応・取り組みについての課題が浮き彫りになってくる。「枠組みに対応するため、社内の仕組みをどう整えていくべきか」「具体的にどのようなCO2削減施策を企画し実行すべきか」といったものである。例えば、複数の拠点を持つ場合、CO2排出量を誰がいつどのように計測し、算定し、報告するのか。各枠組みで設定した目標の達成に向けてどんな施策をすすめるのかといった具合だ。


 本稿では、上記のような課題や問いに合わせ、枠組みに関する論点を4つにまとめた。順に解説していきたい。

論点❶ 枠組みの種類

  どのような枠組みがあるか

論点❷ 枠組みの関係性

  枠組みにはどのような関係があるか

論点❸ 枠組みの優先度

  どの枠組みを優先的に対応すべきか

論点❹ 枠組みへの対応・取組

  枠組みに対応する仕組みをどう整え、どのようなCN施策を企画・実行すべきか

❶ 枠組みの種類

■「目標設定」「情報開示」「評価」の3種を捉える

 CN推進の枠組みは、大きく3種類ある。排出量削減や削減に向けた取り組みに関して目標を定める「ⅰ.目標設定」、取り組みや成果等を公表し企業と投資家や金融機関との対話を生む「ⅱ.情報開示」、そしてその情報等を踏まえた格付け機関等による「ⅲ.評価」である。また、これらの枠組みの前提となっている排出量の「算出ルール」が存在する。代表的なものを図1に示した。順番に見ていこう。


 まず「ⅰ.目標設定」はパリ協定が求める⽔準と……

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