連載:CDOの履歴書から見るデジタル組織の変遷

Vol.2デジタル組織の進化「3形態」、それぞれに求められるCDOの履歴書

  • 2022年12月

連載:CDOの履歴書から見るデジタル組織の変遷

Vol.2デジタル組織の進化「3形態」、それぞれに求められるCDOの履歴書

  • 2022年12月

デジタル変革の2つのモードと、CDOの役割

 デジタル組織形態の最新トレンドを理解・考察するには、「デジタル変革の2つのモード」と「CDOの役割」の理解が欠かせない。2つのモードは、「デジタルインテグレーション(DI)」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」である。DIはデジタル技術を活用したビジネスモデルの高度化を、2つ目のDXは、デジタル技術によるビジネスモデルの転換を意味する。

 詳細は前回記事「CDOが果たすべき3つの役割、問われる『履歴書』」で詳しく述べている。また前回記事では、「CDOの役割」も提示した。①既存ビジネスモデルの急所へのデジタル統合、②ビジネスモデル要素の転換による既存モデルの破壊、③DIとDXの実現に必要なシステム再構築の3つがそれである。①はDI、②はDX、③はITの領域の変革をそれぞれ実現していく役割ととらえていただければよい。

 上記認識のもとで、まずはデジタル組織形態の最新トレンドの概観から話を始めたい。

 

デジタル組織は、3つの形態へと進化

 DXやDIを推進するためのデジタル組織は2015年ごろから日本の大企業で散見されるようになり、17年ごろから設立のペースがぐっと速まった。その形態は各社ほぼ共通で、「①DIと②DXを担うデジタル部門」と、以前から存在する「③ITを担うシステム部門」の2つの部門で3つを構成していた。デジタル部門が当時のCDOの管掌範囲であり、その頃は①DIと②DXの違いを明確に意識していない企業がほとんどであった。その後、リーディングカンパニー各社の試行錯誤を経て、直近ではDIとDXを分離し、主に3つの組織形態に至っている。

 

 第1形態は、「①DI」「②DX」「③IT」の3つの役割ごとに部門を分け、管掌役員も別々に立てる「独立型」である。異なるミッション・性質を持つ部門は責任者と共に別物とし、適宜連携させる考え方である。それぞれの役割が明確になり活動の鋭さが増すメリットがある半面、トップを担う役員クラスが分かれていると、部門間連携が鈍くなりがちなのがデメリットである。セクショナリズムが強まれば、密接な関係にあるDIとITの一体的な推進を行いにくくなる点も見逃せない。

 第2形態は、「①DIと③ITを統合した既存ビジネス革新部門」と、「②DXを担う新規ビジネス開発部門」の2つに分け、それぞれ管掌役員を立てる「DI/DX型」である。既存ビジネスへのデジタル統合であるDIを果たすには、それを支えるITコンポーネントについて、整合性を保ちながら再構築・再編成する必要がある。これを担うDI・IT責任者には既存ビジネスの深い理解と相当な突破力などが求められる。この要件を満たす人材がいるならば、DIとITを1人の役員が管掌することは、既存ビジネスの革新を大きく加速させるだろう。

 一方で、この形態における注意点は、IT関連の取り組みがDIにフォーカスされ過ぎかねないことだ。DXも当然IT基盤を必要とするし、既存ビジネスで培ったデータも大いに活用したいところであり、この点がおろそかにならないような組織設計にしなければならない。加えて、攻めのデジタル(DI)と守りのITという性質の異なるものを、同一組織でマネジメントする難しさも抱えることになる。

 第3形態は、「①DI・②DX・③ITをすべて統合した1つの部門」を設立し、その統合部門を一人のCDOが管掌する「統合型」である。DI・DX・ITについて整合性のとれた取り組みが可能となること、およびデジタルとITの取り組みを俯瞰(ふかん)した経営資源の最適配分を行えることが主なメリットとなる。

 一方で、独立型であったときの良さを阻害する面がある。例えば、DIとDXのせめぎ合いによるビジネスモデルの進化や、DI・DXとITのせめぎ合いによるシステム基盤の高度化の質とスピードは落ちることが多いだろう。

 このように、直近では3つのデジタル組織形態が見られ、それぞれ一長一短があるものの、各組織形態とCDOの人物像がかみ合うと、デジタル組織は高いパフォーマンスを発揮する。では、デジタル組織の進化形を担うCDOはいかなる人物なのだろうか。そのバックグラウンド(=履歴書)をひもといてみよう。

 

DXへの挑戦に専心するCDOの履歴書

 まず取り上げたいのは、SOMPOホールディングスのデジタル事業オーナーとして同社のDXを担う楢﨑浩一氏である。同社は3つの形態でいえば、大きくは第1形態の「独立型」に該当する。

 同社において、DX組織に当たるのが、ビッグデータ解析を手掛ける米パランティア・テクノロジーズと合弁で設立したパランティア日本法人だ。この合弁会社の事業内容は、既存事業を通じて収集したリアルデータの蓄積・活用プラットフォームを提供するというもの。損害保険や介護事業を主要事業とするSOMPOにとって、新しいビジネスモデルで未開拓領域での収益化を狙うものである。そして楢﨑氏が、SOMPOのデジタル事業オーナーとしてパランティア日本法人のCEO(最高経営責任者)を務め、同社のDXへの挑戦に専心している。

 楢﨑氏の「履歴書」はいかなるものだろうか。

 1981年、早稲田大学卒業、三菱商事入社。2000年より米シリコンバレーなどでソフトウエアスタートアップ5社を経営した(シリコンバレーに12年在住)。16年より、SOMPOホールディングスのCDOを務め、19年よりパランティア日本法人のCEOに就任という経歴だ。社外からの登用という点で、完全なる黒船型のCDOであり、黒船ゆえの強みと弱みを正しく認識し、DXに専心する道をまい進している。このような「テクノロジーが分かる根っからの事業家」こそが、DX領域のトップに求められる人物像だろう。

 

DIとITの統合という大変革を担うCDOの履歴書

 次に取り上げるのは、アフラック生命保険と、同社のCTO(Chief Transformation Officer)・CDIO(Chief Digital Information Officer)として、DIとITの統合を図りながら、ADaaS(Aflac Digital as a Service)などDXをも狙う二見通氏だ。

 同社は18年にデジタルイノベーション推進部を発足し、DIに必要なUI/UX・データアナリティクスの「ふ卵器」として活用してきた。21年、そのデジタルイノベーション推進部は、CIOとしてシステム部門を管掌していた二見氏の傘下に入った。アフラックが取り組むデジタル変革には、顧客接点のデジタル化や、データを活用した業務の効率化などDIが多い。UI/UXやデータアナリティクスのケイパビリティー(組織の推進力)と、システム開発のケイパビリティーを二見氏の下で融合させ、DIとITを統合的に推進していく体制としたのである。

 その二見氏の「履歴書」を見てみよう。

 11年1月までAIGグループ会社でCIO常務執行役員としてシステム部門、オペレーション部門を担当。同年4月、メットライフ生命保険に入社し、CIO執行役員常務としてシステム開発部門を担当。その後、三井生命保険を経て、アフラックへ入社し、CIOを担っていくという経歴だ。

 既存の生命保険業務の深い知見を持ちながら、システムを中心としたテクノロジーにも明るい両利き人材と言ってよい。加えて、アフラックには中途入社であるものの、デジタル変革に着手したときは既に5年以上が経過しており、アフラックという会社の理解もばっちりだった。このような「自社を知り尽くした両利きの変革家」というのが、DIとITの統合という大変革を担い得る人物像だろう。

 最後に取り上げるのはベネッセホールディングスと、同社のCDXO(Chief DX Officer)として、DI・DX・ITすべてを管掌する橋本英知氏だ。

 同社は21年4月、「Digital Innovation Partners」という「統合型」の新組織を編成。DIとITに関する経験・知見が豊富な人材を新組織に集結し、人的資源の最適配分を図るとともに、DXを図るための外部ウオッチや先行投資まで担っている。そのDigital Innovation Partnersのトップを務めるのが、橋本氏である。

 早速、橋本氏の「履歴書」をひもといてみよう。

 ベネッセに新卒入社後、各種メディアでの教材・販促物の企画・制作に携わった。その後、新商品開発、新規事業開発、経営企画を経験し、CMO(最高マーケティング責任者)補佐として、マーケティング戦略・ブランドコミュニケーション・情報基盤・組織人事・コンプライアンス・業績管理などに広く従事。グルーバル教育事業やこどもちゃれんじ事業、進研ゼミ事業の責任者を務め、20年4月からデジタル管掌役員となった。

 履歴書を見れば分かる通り、二見氏と同様、「自社を知り尽くした両利きの変革家」であるとともに、楢﨑氏と同じく「テクノロジーが分かる根っからの事業家」でもある。このような履歴書だからこそ、「統合型」という稀有(けう)な組織をけん引できるのだろう。

 CDOの「履歴書」をただのプロフィルと思うなかれ。デジタル変革モードやCDOの役割、そしてデジタル組織の最新トレンドなどと併せて考察することで、デジタル組織とそのトップの在り方についての非常に深みのある切り口となる。

 自社のデジタル変革の歴史と現在地、加えて組織や関連する人材の特性なども鑑み、これまでのシリーズ記事を参考にしながら、自社が求めるCDOの「履歴者」を考えてみてほしい。そうすれば、自社に最適なCDOを据えることができるはずだ。


 

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