人的資本経営とどう向き合うか ~意識変革の有無が明暗を分ける~

パートナー 杉山 俊光
「人的資本経営」が、企業経営における大きなトレンドの一つになっている。流行や義務化などの外的圧力を受けてやむなく取り組むのものではない。内閣官房による「人的資本可視化指針」は、取り組みの結果を正しく外部に伝えるための道筋を示したもの、活用すべきガイドラインと捉えたい。本稿では人的資本経営の基本的な考え方をなぞりつつ、なぜ企業経営に必要なテーマと言えるのか、その本質を紐解いていく。

企業価値向上に向けた人的資本経営の機運が高まる

 「人的資本経営」とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方である。


 『人的資本経営の実現に向けた検討会報告書』(人材版伊藤レポート2.0)に記されている通り、企業価値の持続的成長を実現するため、わが国では2010 年代に入ってコーポレートガバナンス改革が進められ、加えて企業価値の主要な決定因子が有形資産から無形資産に移行してきている。また、無形資産の中でも人的資本は経営の根幹にあるべきものと位置付けられている。


 この認識を持ち、自社の中長期戦略などに照らし合わせて、投資対象とする人材は誰か、その人材に対してどのような投資をするのか、結果としてどのようなリターンを得たいのかをブループリント(青写真)として策定することが最初の取り組みとなるだろう。

成功の要諦は、中長期目線の持続的対応

 日本において「人的資本経営」というキーワードが多く見られるようになったのは、2020 年の『人材版伊藤レポート』からだろう。2022 年の『人材版伊藤レポート2.0』で具体的な取り組みの道筋を示すと、広く人事領域で人的資本経営が語られるようになった。


 制度の面においても、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード改訂(2021 年)、内閣官房による人的資本開示指針の公開(2022 年)、有価証券報告書での開示義務化(2023 年) など、立て続けに整備が進んでいる。


 ただし、それ以前からも、「健康経営」という観点で人に焦点を当てた取り組みを実施しており、特定の分野・領域では、人的資本経営を進めるための土壌が整ってきていたと言える。


 にもかかわらず、欧米と比較して取り組みに差が生まれてしまっていると感じるのはなぜだろうか。それは……

全文はPDFをダウンロードしてご覧ください。

資料ダウンロード PDF(1.23 MB)
論考トップへ戻る