生命保険進化論 ~未来に向けて起こすべき“原点化”のパラダイムシフトとは~ 後編

エグゼクティブパートナー 杉山 俊光
「原点化」する生命保険の未来は、果たして実現可能か。従来の延長線上にない取組みには多くの壁が想定されるが、既存のテクノロジーで乗り越えられるはずだ。先行事例を織り交ぜながら、保障を暮らしに溶け込ませるメカニズムを示し、実現のアプローチを探る。さらにはマネタイズの実現性も考察しながら、生命保険の新たなビジネスモデルの解像度を高めていく。

「原点化」する生命保険の未来は、単なる絵空事なのか?

 中世ヨーロッパの「ギルド」に端を発する生命保険は、「身近な誰かが困るのを見たくない、助けたい」という人間らしい感情から生まれた。生命保険の原点は「顔の見える集団」による相互扶助である。生命保険は世帯加入率約 9 割を誇る日本国民の必需品であり、公的保障を補完する社会インフラとして機能してきたが、直近の世帯加入率や払込保険料額などを見ると、そのプレゼンスは徐々に低下の一途を辿っている。この流れに歯止めをかけ、潮流変化を起こすには、生命保険の根幹である「商品」と「チャネル」を抜本的に変革するパラダイムシフトが求められている。


 そのカギは生命保険を「原点化」させることにあり、「顔の見える集団」による相互扶助のエコシステムを構築し、暮らしに溶け込む保障を消費者に届けることがポイントである。そのために保障は使途別に細分化され、必要な人に、必要な時に、必要な保障が届けられる。


 前編では生命保険の「原点」「現在」「未来」と論を紡ぎながら、生命保険の未来像を示した。前編をまだお読みになっていない読者の方は、まずはぜひ前編からお目通しいただきたい。


 後編となる本稿では、前編で提示した生命保険の未来像を実現するうえで想定される課題と、テクノロジーによるその乗り越え方を示しながら、未来像の実現可能性に迫っていく。さらにはマネタイズの観点でも実現性を深掘りながら、ビジネスとしての可能性に期待いただけるような内容としている。我々が示す未来像が決して単なる絵空事ではないことを感じていただけるだろう。

未来像実現に向けて、立ちはだかる壁

 我々が示す生命保険の未来像は生命保険ビジネスの根幹である「商品」や「チャネル」を抜本的に変えるパラダイムシフトとなる取組みのため、その実現に向けては従来にはない「壁」が想定される。立ちはだかる「壁」には、「保険会社目線」の壁と「消費者目線」の壁がある。それぞれ見ていこう。


①保険会社目線の壁
・使途別に細分化された大量の保障開発
 まず保険会社目線の壁だが、例えば、「習い事継続保障」や「通学保障」など、保険会社はニーズに応じて使途別に細分化された大量の保障を開発する必要が出てくる。現状、1 つの保険商品を開発するのに 1 年ほどかかることもある中で、大量の保障を同時並行で開発し、世に出すことは現実的とは思えない。

・シームレスな保障の脱着
 必要な人に、必要な時に、必要な保障を届けるために、ライフステージの変化に応じたシームレスな保障の脱着をタイムリーに行わなければならない。消費者1 人につき、目まぐるしい保障の脱着が行われるため、その処理は現在のシステム基盤では耐えられない複雑なものが想定される。

・本人確認と集団の所属
 消費者が「顔の見える集団」の購買行動に組み込まれた保障に加入するためには、その人の本人確認(KYC)のプロセスや、その人が「顔の見える集団」に所属しているという証明(所属証明)が欠かせない。こうした複雑な処理が 1 人の消費者に対して何件も発生するため、システム負荷を考えると、これまた不可能に思えてしまう。


②消費者目線の壁
・生命保険に対する加入障壁
 次に消費者目線の壁を考えてみよう。これはあらゆる商品・サービスに言えることであり、現在の保険商品においても課題の 1 つであるが、「生命保険に対する加入障壁をいかに下げるか ?」が課題となる。


 加入障壁は、……

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