歩くだけでお金が稼げる??~X2E(X to Earn)ビジネスの考察~

  • 2023年2月

歩くだけでお金が稼げる??~X2E(X to Earn)ビジネスの考察~

  • 2023年2月

そもそもX2E(X to Earn)とは何か?

 STEPNというアプリをご存じだろうか。スマホでアプリをダウンロードし、アプリ内でNFTスニーカーを購入すると、後は実際の生活で歩いたり、走ったりするだけで、報酬として暗号資産(いわゆる仮想通貨)が得られる。実際、歩くだけで1日数千円以上稼いだ経験を持つ人も存在する。このように、動くことでお金が稼げるサービスを「M2E(Move to Earn)」と呼び、STEPNの他にもCaloRun・RunBlox・Aglet等、多くのアプリが存在している。
 また、ゲームをプレイして稼ぐP2E(Play to Earn)というものもあり、フィリピン等の東南アジアを中心に大きなムーブメントとなっている。P2Eの代表格Axie Infinityでは、ゲームの稼ぎで生計を立てるユーザーが登場するなどその勢いは凄まじい。
 その他にも、S2E(Sleep to Earn)、L2E(Learn to Earn)など例を挙げればきりがないが、これらをまとめてX2E(X to Earn)と呼ぶ。構想段階のものも含め、実に多様なX2Eが生まれてきていることが分かる。

 

 

    ここで多くの方は疑問を抱くであろう。
 なぜ動いたり、ゲームをしたり、さらには寝たりするだけで報酬が得られるのであろうか?
 一体、誰がお金を払っているのか?どのようなビジネスモデルになっているのだろうか?

 先に挙げたSTEPNを例に見てみよう。
 STEPNでは、プレイ開始にあたりまずアプリ内でNFTスニーカーを購入しなければならない。その価格は数千円~数十万円と非常に幅広い(レベルが高い靴ほど高額だが、稼げる額は増える)。購入後、実生活で歩くことで暗号資産(仮想通貨)を稼げるようになるのだが、アプリ上のNFTスニーカーはリアルと同じように日々の運動によって傷む(傷んでいるように見える)ため、修理したりあるいは新たなNFTスニーカーを購入して履き替えたりと、プレイ継続にもお金がかかる。つまり、ユーザーは歩いた分だけ稼げるが、それと同時に、一定の初期投資と継続投資が求められるのである。実際、投資分を回収できずにトータルで赤字となっているユーザーも少なくないようだ。

 このように、参加者が払うお金を原資として、実際に多く歩いたり走ったりしたユーザーにお金が支払われている。つまり、実態としては、単に参加しているユーザー間でお金が巡っている構造に近いのである。このような観点から、投資詐欺の1つである「ポンジ・スキーム(※)」と同様ではないか、と指摘する人もいる。
(※)資金を集めた投資家への支払いを、投資の運用益ではなく後から参加する新規出資者から集めた資金で賄う手法。新規出資者が少なくなると破綻する。
 もちろん単なる投資とは異なり、歩くことで暗号資産(仮想通貨)を稼ぐ、NFTスニーカーを収集する、というゲーム要素を持ってはいるものの、現状のM2Eはビジネスモデルとして(事業の安定性や継続性等の観点から)サステナブルとは言いがたいのが実態であろう。
 それでは、なぜこれほどM2Eを始めとするX2Eに注目が集まり、多くのユーザーが存在するのであろうか?
 今後、X2Eはどのように発展していくのであろうか?はたまた一過性のブームに過ぎないのであろうか?

X2Eは何を目指しているのか?

 先にあげたSTEPNは、そのミッションとして「web3.0の技術を活用して数百万人の人々に運動を促し、健康的なライフスタイルを実現するとともに、気候変動の問題に取り組むこと」を掲げている。つまりSTEPNは、ユーザーに暗号資産(仮想通貨)を稼げるというインセンティブを付与し徒歩移動を促すことで、人々を健康にするだけでなく、乗り物移動を減らすことでCO2排出を抑制し、カーボンニュートラル実現に貢献することも目指しているのである。実際STEPNは、炭素除去マーケットプレイス「Nori」とパートナーシップ契約を締結し、収益の一部でカーボンクレジットを購入しており、カーボンニュートラル実現に積極的に取り組んでいることが窺える。

 別の例を見てみよう。S2E(Sleep to Earn)アプリであるSleepeeでは、ユーザーはアプリを起動したままただ寝るだけで、睡眠の質に応じた報酬(SLEEPEEトークン)を得ることができる。アプリの運営会社であるSleep Futureは、「世界中の人々がより良い睡眠を取り、健康的で幸せなライフを実現すること」をビジョンに掲げている。

 つまり、X2Eアプリは、行動Xに報酬を払うことでユーザーに行動変容を促し、カーボンニュートラルや健康維持の実現に貢献することを目指しているのである。

X2Eに未来はあるか? ~「データ活用」によるマネタイズがポイント~

 X2Eアプリがこのように大義を掲げたとしても、マネタイズが出来なければ当然ビジネスとして継続することは出来ない。ユーザーに報酬を与え続けるためには、原資となる収入を外部から得ることが必要となる。その1つの方向性として、行動Xのデータを周辺事業へ活用することが考えうる。

 先ほど例示したSleep Futureは、アプリで取得した顧客の睡眠情報を活用し、新たな睡眠デバイスの開発や、顧客への睡眠相談事業を実施している。また、D2E(Drive to Earn)アプリでは、顧客の運転データを活用したナビゲーションシステムの開発・改良を実施しているケースもある。つまり、アプリで集めたデータを活かし、周辺事業から間接収益を得ることが出来れば、必ずしもX2Eアプリ単体で直接収益を得る必要はないのである。

 このようなデータ活用による間接収益はマネタイズの一つの手段に過ぎない。そして、X2Eが持続可能なビジネスモデルになれば、ユーザーに継続的な行動変容を促し、新たな社会課題の解決の糸口となるであろう。

 X2Eで解決できるテーマは環境や健康に留まらない。

 Learn to Earnアプリによって、教育が行き届いていない貧困国の子供たちへ教育の機会を提供することができるかもしれない。Drive to Earnアプリによって、安全運転を推奨・支援することで、交通事故を減らすことができるかもしれない。他にも様々なアイデアが湧いてくるであろう。

 

 

多くの可能性を秘めているX2E。現状はまだ実験的な色合いが強いサービスも散見されるが、今後の発展に期待したい。

 歩く、眠るといった日々の何気ない行動は視点を変えて見てみると、自分自身だけでなく、他者さらには社会全体にとって、実は価値あるものかもしれない。

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