「デジタル田園都市国家構想」が起爆剤、スマートシティ市場を制する3つの秘訣

  • 2023年8月
  • マネージャー 毛藤 圭祐

「デジタル田園都市国家構想」が起爆剤、スマートシティ市場を制する3つの秘訣

  • 2023年8月
  • マネージャー
    毛藤 圭祐

デジタル田園都市国家構想がスマートシティ市場の成長ドライバーに

 デジタルの力で地方活性化を目指す「デジタル田園都市国家構想」。岸田内閣の看板政策の1つであり、巨大な予算が投じられている。この構想が市場に与えるインパクトを明らかにした上で、その市場で存在感を強めるための秘訣を考察する。

 

 2021年に発表された「デジタル田園都市国家構想」は、デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されず、全ての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現するというものだ。「心豊かな暮らし」(Well-being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)の実現を目指している。

 本取組みを推進すべく、デジタルサービスを導入する自治体に対して交付金を活用した支援が行われている。内閣府地方創生推進室によると、2023年(令和4年度第2次補正予算)では、約1,000団体に対し国費ベースで約378億円が支給されている。

 この交付金はスマートシティ市場、特に自治体関連のデジタルサービスやデータ連携基盤に対し、大きなインパクトをもたらす。すでに一部の先駆的なサービス事業者は、この交付金制度を活用し、ビジネスを拡大させているのだ。交付金が引き起こすビッグウェーブに取り残されないようにしなければならない。

 

単一サービスで数十億円狙えるビジネスチャンス到来

 サービス事業者がデジタルサービス単体でどれほどのビジネスボリュームを期待できるのか考察してみよう。

 筆者の見立てでは、十分に数十億円規模のビジネスを狙うことが可能であると考えている。その根拠は、人口・財源規模を問わず、どの自治体でもこの交付金制度を受けることができ、デジタルサービス導入の原資を得ることができるという「交付金制度の間口の広さ」、そして「交付金額の大きさ」がある。


 象徴的な事例を2つ紹介しよう。1つ目は島根県隠岐の島町の遠隔教育システムだ。人口約2万人の隠岐の島町は、遠隔教育システムを導入し、学校同士をつなぐ合同授業の実施や外部専門人材の活用などに取り組む。これにより教師の指導や子供たちの学習の幅を広げ、キャリア観の育成や教科指導の質を高め、地理的条件や学校規模に影響されない充実した学習環境を実現することを目指している。導入にあたり、「デジタル田園都市国家構想交付金(TYPE1)」を申請し、で約2,400万円を受給している。

 

 2つ目は、沖縄県那覇市の親子健康手帳アプリだ。那覇市は、予防接種・乳幼児健診の予診・受診票をデジタル化に取り組む。保護者が任意の時間帯に簡単かつ確実に入力できるようにすることで、若い子育て世代の生活環境に寄り添った子育て支援を実現するため、親子健康手帳アプリを導入した。導入にあたり、「デジタル田園都市国家構想交付金(TYPE1)」を申請し、約4,700万円を受給している。この親子健康手帳アプリの事業者は、交付金制度を活用しつつ、那覇市以外にも全国約500自治体に対してサービスを展開しており、これは1つの成功事例といえる。

 

 上述した2つの事例をはじめとするデジタルサービス導入に対する交付金支援は、自治体の規模を問わず約1,000団体に対して例年行われているという「交付金制度の間口の広さ」と数千万円規模の「交付金額の大きさ」があるのだ。仮に、全国の100自治体に対して2,000万円ずつ提供することができれば、総額で数十億円規模のビジネスチャンスが存在すると言える。

 

デジタルサービス事業者が取り組むべきこと

 交付金制度を味方につけ、自治体向けデジタルサービスで数十億円規模のビジネスチャンスを掴むためには、何が必要なのだろうか。その秘訣を3つ紹介しよう。

 

①国の指針に準拠する


 各省庁の省令様式やデジタル庁が整備しているフォーマットを理解し、それに則ったサービスデザインを考案する。これにより、「国の指針に準拠し標準的であること」をサービスの価値として訴求することができる。デジタル庁が公表する「デザインシステム」や「政府相互運用性フレームワーク」を採用したサービス設計を一考することが望ましい。既にサービスを確立している事業者よりも、これからデジタルサービスを企画・開発を計画する事業者が優位に立てる可能性がある。


②コンソーシアムへ積極的に参加する


 自治体が主催するコンソーシアムに参加し、導入推進に向けた自治体との関係を築くのだ。これにより、競合よりも提案を有利に進めることができる。また、これは交付金申請の要件としても必要不可欠な取り組みである。


③地域幸福度(well-being)をアピールする


 デジタルサービス導入により、well-beingが向上されることを自治体へアピールする。PoCや他自治体への導入を通じて定量的に推計することが望ましい。先に挙げた「遠隔教育システム」の例では「充実した学習環境を実現」、「親子健康手帳アプリ」の例では「若い子育て世代の生活環境に寄り添った子育て支援の実現」がwell-beingに寄与するとされている。これをさらに具体的な要素に分解・定量化し、自治体に伝えることで、デジタルサービスがもたらす効用をより明確に訴求することができる。

 well-beingの推計には、デジタル庁が2022年に公表した「デジタル田園都市における地域幸福度指数(well-being指標)」を活用することが望ましい。デジタル庁では利活用ガイドブックや分析用テンプレートを公表しているため、これらは必読と言える。

 

 日本では、well-beingを定量的に訴求できているデジタルサービスがまだまだ少ない。これを訴求できるサービス事業者は、今後のスマートシティ市場のトップティアになると筆者はみている。Well-beingを武器に、人々と企業をより豊かにするサービスこそが、デジタル社会の勝者となるだろう。

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