【DX対談】三井住友海上のDXは全社一丸となって
進めていく

  • 2021年8月

【DX対談】三井住友海上のDXは全社一丸となって
進めていく

  • 2021年8月

一本木 真史        (三井住友海上火災保険 取締役常務執行役員 兼 MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員 グループCDO グループCIO グループCISO)

本山 智之            (三井住友海上火災保険 執行役員 デジタル戦略部長)

則武 譲二            (ベイカレント・コンサルティング 常務執行役員 CDO)

大澤 崇生            (ベイカレント・コンサルティング 執行役員)

 

リスクをテクノロジーで解決する「RisTech(リステック)」の取り組みを、2019年度から推進してきた三井住友海上。今後見据えるのは社員全員がお客様の課題に向き合っていく全社一丸でのDX活動だという。DXで目指すビジョンに対し、現在は何合目まで来ているのか。これまでの成果とこれから想定している取り組みについて伺った。

成果の出始めたRisTechを更に強化していく

則武 御社のDX活動は目標に対して現状どの段階にありますか?これまでのDXの取り組みと今後想定されている取り組みの双方について教えてください。

一本木 これまで社内の色々なものをデジタル化し、効率を上げてきました。営業の事務手続きをシステム化する取り組みは、2015年くらいから始めてきましたが、ようやく今年度で完了する見込みです。また、今月(2021年7月5日)からBRIDGEという保険金のお支払いに関する基幹システムが新たに稼働し始めました。まずは自動車保険から始めていますが、事故の受付から保険金のお支払いまで、一気通貫でのペーパーレスを実現しています。お客様がご自身で状況を確認できる機能も新たに設けました。

そして現在は、デジタル技術やデータを活用して保険事業を高度化していくフェーズに入っています。例えば、保険会社が保有しているデータや外部データ等を活用してお客さま企業や社会の課題を解決する取り組みです。弊社ではこの取り組みを、リスクをテクノロジーで解決するサービスとして、言葉を組み合わせて「RisTech」と呼んでおり、2019年度から取り組んできました。既に260社以上と会話を始めており、175億円以上もの保険料の増収効果が出ています。

則武 RisTechはこれまでの御社のビジネスを変革するものだと思いますが、社内にはどれほど浸透しているものですか?

一本木 RisTechは弊社のDX戦略の柱となっていくものです。ただ、これまではどうしても、デジタルやデータに対する感度の高い一部の社員の取り組みに留まっていました。本社側としてもデータサイエンティストのようなデジタルの専門性がある社員を増やし、徐々に体制を拡充してきたというのが現状です。

これからは14,000人の社員全員がお客様や社会の課題と向き合い、解決策を考えていくようになってもらいたい。そういう感度を上げて、上がってきた課題を全力で解決していくという文化を創り上げていきたいと考えています。そして、この取り組みを発展させ、データビジネスとして事業化し、拡大していきます。次の中期経営計画で新たな収益基盤として明記していく予定です。

多くの社員に自分事となってもらうため、チャレンジプログラムの量と質を高めていく

則武 14,000人もの社員をどうやって変えていくか、育成方法に関してはどのように考えておられるでしょうか。数年にわたってDXを推進されてきたなかで、社内のデジタル感度はどれほど温まっておられますか?

一本木 デジタルに関する教育プログラムは様々導入していますが、そうして得た知識をもとに、新しいビジネスやソリューションを発想する柔軟な姿勢が重要と考えています。

そのために、社員が新しいものを生み出す発想の場として「チャレンジプログラム」という取り組みを2019年度から始めているのですが、2年間合計で4,000件を超えるアイデアが出てきており、DXに対する意気込みが高まっていることを感じています。事業化を目指し、PoCに進んだアイデアは約40件あるのですが、その中にはマネタイズまで見えているものも出てきました。

大澤 4,000件ものアイデアが出てきた背景には何があったのでしょうか?いきなり大量のアイデアが殺到することはないと思いますが、最初の一歩はどのように進められたのでしょうか?

本山 社外の専門家にも協力してもらいながら、アイデアを提案しやすい枠組みにするなど工夫しました。またオープンイノベーションの考え方を徐々に浸透させてきたことも成功要因です。これまで通りのやり方だと、どうしても秘密主義の商品開発になってしまいますから、「アイデアの時点からオープンに発言しても良いんだ!」と気付いてくれる社員が増えることが重要でした。最初のひとこと目を臆せず言えるようになってきたのは大きな変化だと思います。

また、デジタル戦略部からの情報をオープンにしていったことも効果的でした。チャレンジプログラムの評価観点を公開し、PoCには応募者自身も参加できるようにしています。

大澤 「社員が考え自由に提案しても良い」というオープンイノベーションの文化が少しずつ根付いていった結果として、4,000件の応募があったということですね。では3年目となる今年は、どのように取り組みを発展させていかれますか?

一本木 これからは量だけでなく、質も担保していきたいと考えています。そのために、より情報をオープンにし、マネタイズにつながっているアイデアなどを具体的に見せていきます。弊社の社員は日頃からお客様と接する機会が多いので、お客様の抱える課題を見つけることには長けています。それを自分のアイデアで解決しようという考えをもってもらいたいと思います。

本山 昨年度のチャレンジプログラムでPoCに進んだアイデアについて、応募者自身が社内向けにプレゼンするオンラインイベントを行ったのですが、500名以上の申し込みがあり、注目度の高さが伺えました。加えて、プレゼンは「このビジネスはお金になるんだ」という意気込みにあふれており、より多くの社員が関心を持ってくれたと思います。

お客様と接する機会の多い営業部門の社員は、本取り組みにかなり積極的になってくれていますが、その背景には生産性向上施策の成果が出てきたということも大きいと思います。オペレーション効率化の成果が出た結果、社員が事務作業などから解放され、お客様と接する時間は増えています。すると、より多くの課題に直面することになるため、本取り組みで解決策を実現したいという流れにつながっているのだと思います。

全社一丸となってお客様の課題を解決していきたい。その先の社会課題まで見据えて

則武 約40件のPoCに進んだアイデアは、具体的にどういった点が評価されたのでしょうか?象徴的だったものがあれば教えてください。

一本木 ドライブレコーダーの映像を使ったアイデアは画期的でした。映像を分析して、道路の補修が必要な個所を特定していくもので、点検コストを大幅に効率化することができます。

本山 EVの充電ステーションをどこに設置すべきかを分析するアイデアも印象に残っています。「どこの誰がEVに乗っているか」は保険会社が持っている貴重な情報ですが、これがわかると効率的に充電していただけるインフラを整備できるようになります。

則武 二つとも非常に深く考え抜かれたアイデアだと思いますが、社会課題の解決まで見据えたものでないと選ばれないのであれば、社員の皆様はハードルが高いと感じるかもしれません。というのも、日頃から接しているお客様が抱えている課題は、社会課題のような大きなテーマばかりではないと思われるからです。どうすればこのようなアイデアが思いつけるのか、社員の皆様に向けてアドバイスはありますか?

一本木 これは私の想像ですが、おそらく応募者はそんなに壮大な課題から考えているわけではないと思います。例えばEVの充電ステーションのアイデアにしても、お客様との何気ない会話のなかで、データ分析してみたら面白そうだなという小さな閃きからスタートとしているのではないでしょうか。

則武 始まりはちょっとした課題でもよくて、そこからいかに社会課題解決のような壮大なビジョンまで妄想を広げられるかが重要なのでしょうね。そして解決策を考える際には、保険会社としての御社のアセットを活用する考えも欠かせません。

一本木 その通りだと思います。今後より多くの社員に自分事となってもらうためにも、決して敷居の高い取り組みではないことを社内に広めていきたいと思います。

大澤 多くの企業の取り組みを見ていると、社員のモチベーションは「目先の売上を伸ばしたい」、「自分の評価を上げたい」という要素が大きいようにも感じます。一方で御社の場合、自分のお客様だけを見るのではなく、社会全体の課題まで見据えてアイデアを発想することが出来ているとお見受けしました。なぜこのような視点に立つことができているのでしょうか。何か秘訣があれば教えてください。

本山 弊社の中期経営計画にはベースにCSV(Creating Shared Value:社会との共通価値の創造)の考え方があり、数年に渡って伝え続けてきたので、全社員に浸透してきているのだと思います。ですので、アイデアを発想する際に社会課題に結び付きやすいのでしょう。

一本木 経営層からメッセージを発信し続けることが重要なのだと思います。CSVにせよDXにせよ、繰り返し何度も伝えてきたことで、社員の興味関心が高まっていることを感じています。何度も言いますが、DXの取り組みは社員全員で取り組んでいきたいと考えています。14,000人でお客様の幸せを考え、お客様の課題解決に応えていく。そういう想いでRisTechの取り組みを更に推進していきたいと思います。

 

【プロフィール】

一本木真史

1987年、旧住友海上に入社。商品部門、営業部門等でキャリアを積み、2018年に執行役員、2020年に取締役 常務執行役員 兼 グループCIO・CISO。2021年4月よりグループCDOも兼任し、三井住友海上およびMS&ADグループ全体のデジタライゼーションを推進。

 

本山智之

1989年、旧大正海上に入社。営業部門、人事部門等を経て、 2019年4月にデジタル戦略部長。2021年4月から執行役員。三井住友海上のデジタライゼーション推進の責任者として、デジタル技術を活用した新たなシステムの開発、スタートアップへの投資、デジタル人財の育成等に取り組む。

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